「トランプ関税」でインド経済に注目…「中小企業のおやじ」はどう見る?
完了しました
どこの国でもいいから1番になりたい(1978年)
地球上には市場が無限にありますから、歩いて歩いて行動(2021年)

4月8日。スズキの相談役だった鈴木修さんのお別れの会が東京のホテルで営まれた。会場に掲出された語録「歩いて歩いて」「1番」になった市場の代表格がインドである。
「中小企業のおやじ」を自任するトップの下、スズキは80~90年代にインドやハンガリーで四輪車生産に踏み切り、シェア首位の座を築いた。インドは今、約100か国・地域への輸出拠点でもある。浜松を本拠に海外へ雄飛し、94年の生涯を全うした「おやじ」を惜別する会は、浜松、そしてインドでも行われた。

インド経済への注目度が一段と高まってきた。トランプ米大統領による関税引き上げが背景にある。
英財務相は4月9日、印財務相と会談し、停滞している自由貿易協定(FTA)の締結交渉の加速を呼びかけた。東南アジアの国のほか国境問題で対立してきた中国もインドに秋波を送っている。21日にはモディ印首相とバンス米副大統領が貿易協定の年内締結を目指す方針を確認した。
人口世界首位、国内総生産5位のインドの成長率は6%を超す。モディ氏が目指す「独立100周年(2047年)までの先進国入り」は射程圏内といえる。成長市場に高関税を仕掛けられた国、仕掛けた国が接近している構図だ。

インドに米国が課す相互関税は26%で日本(24%)と大差ない。インド経済研究所によると、インドからの輸出額が最も多いエレクトロニクスは、ライバルの中国やベトナムに対して「やや優位」となる。一方、得意とする宝飾品はイスラエルより「やや不利」に働く。やはり主力の輸出品である衣料は周辺国に比べ「やや優位」である。
米国で需要が多い医薬品は相互関税から除外されている。その動向は医薬品輸出が多いインドにはリスクとして残るが、相互関税率は中国はむろん東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国との比較でも低く、影響は抑えられている。
トランプ氏とモディ氏は2月に会談した。インド経済研究所の菅谷弘シニアアドバイザーは「トランプ氏から地政学上、関税政策は中国覇権の抑制も主目的であることが語られるなど、その意図について突っ込んだやり取りがあったのではないか」と読む。
だが、行動が読み切れないのがトランプ氏の真骨頂だ。ここに来て対中関税は大幅に下がると語った。ディール(取引)は心理戦の様相を帯びている。その渦中でインドが重要な位置にいることは疑い得ない。