外交で重きをなす「印象管理」、インドネシア次期大統領の来日と訪中から見る
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「尊敬する方だから、改まった服装でお伺いしよう」
「大事な仕事相手だから、先方の好みのレストランを調べてお招きしよう」
誰しも、意識的か無意識的かを問わず、日常生活でこのような判断を繰り返していることだろう。相手に対するふるまいを配慮したり、相手を考慮して自分の行動を変えたりすることを通し、他者に自分の好ましい印象を認識させようとする行為は、「印象管理」と呼ばれる。
就任前に岸田首相を表敬訪問、要望は約1週間前

印象管理理論はカナダ出身の社会学者アービング・ゴッフマンが提唱した概念だ。自身の内情を明らかにしたり、自分を魅力的に見せたりする「印象管理」が奏功すれば、社会的な価値が高まり、信頼関係を築き、人脈を広げることなどにもつながっていく。
「印象管理」は外交や政治の世界でも大きな意味を持つ。
4月3日、インドネシアの次期大統領であるプラボウォ・スビアント氏が来日し、岸田首相を表敬訪問した。プラボウォ氏の大統領就任は10月の予定で、現在はまだ現役の国防相だ。就任前に海外の首脳を表敬するのは珍しいうえ、インドネシア側から訪問の要望があったのは面会の約1週間前。緊急案件でもない限り、通常の外交行事ではみられない急な要請だった。それでも日本政府が岸田氏の日程を調整してプラボウォ氏の表敬を受けた背景には、中国の存在があった。
中国の
中国は反中姿勢に転ずる可能性を警戒

中国がプラボウォ氏を丁重に扱うのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主であるインドネシアでの10年ぶりの政権交代によるハレーションを最小限にとどめたいためだ。ジョコ現大統領は、最大の貿易相手国である中国を重視し、友好的な関係を築いた。一方、両国は南シナ海で資源開発を巡る対立を抱えており、中国側は軍人出身のプラボウォ氏が国防力を強化し、反中姿勢に転ずる可能性を警戒している。
プラボウォ氏側から「中国訪問のあと、日本を訪れたい」との意向がもたらされた時には、こうした思惑に基づいて中国がインドネシアを厚遇する姿勢を見せていることが日本側にも伝わっていた。日本側は「プラボウォ氏側から来日したいと言っているのは、日本を重視している表れだ。中国と比べ、日本が見劣りする印象を持たれては困る」(日本政府関係者)として、表敬に応じることを決めた。
日本にとっても、物資輸送に不可欠なシーレーン(海上交通路)に位置するインドネシアは、経済と海洋安全保障の両面で重要な東南アジアの大国だ。表敬で岸田氏は、プラボウォ氏に「基本的な価値や原則を共有する包括的・戦略的パートナーシップのもと、協力を進めたい」と述べ、笑顔で写真に収まった。
「安倍首相はビジネスとして、習氏は真の友人として」


プラボウォ氏側も、表敬に際してある「印象管理」を仕込んでいた。プラボウォ氏は、表敬にユディ・アブリマンティオ国軍司令部戦略情報局長官を同席させ、わざわざ起立させて岸田氏に丁寧に紹介し、存在を強く印象づけた。そのうえで、「安全保障をはじめ、幅広い分野の協力をさらに強化したい」と強調した。
ユディ氏はプラボウォ氏の信頼が厚く、来日の直前に長官に任命されたという。半年後にプラボウォ政権が発足した後は、ジョコ体制で国内秩序維持に傾いた国軍を再び対外防衛にシフトさせ、防衛政策を転換させるとみられている。外交関係者は「岸田首相への表敬にユディ氏を同席させてわざわざ紹介したのは、インドネシアが日本との間で情報協力を強化したい思惑の表れだろう」と指摘する。