日本経済新聞
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国立情報学研究所 教授
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日本では、デジタル人材というと、情報学科などでコンピュータサイエンス(CS)を学んだ人材を指す発想が一般的です。 しかし、米国は2007年に、従来のCS単独の人材育成から、「CS+別分野」の複合的な人材育成へと大きく方針を転換しました。その背景には、デジタル技術そのものに精通した人材も重要ではあるものの、デジタル化の対象となる各分野の専門知識とデジタル技術の両方を備えた複合的な人材こそが必要だという判断があります。 日本でも、振興策を進める政府や、それに応じて人材育成を担う大学が、こうした「デジタル人材の質的な変化」に気づいてくれることを切に願います。
マイクロソフトはオープンAIに約2兆円を投資しているが、その回収は疑問視されている。同社の経営陣としては、株主の反発・責任追及を避けるためにも、オープンAIを同社のコントロール下におきたいはず。オープンAI側がそれを受け入れるとは限らない。 いずれにしても両社の関係悪化はオープンAIの技術者流出を招くといえて、それはオープンAIだけでなくマイクロソフトにも損失となる。関係悪化の長期化は避けるべきといえ、オープンAIを経営陣を入れ替えてでも、両社の関係改善を試みる可能性も否定すべきではないだろう。すでに生成AIの有力企業はオープンAIだけではなく、他社に追い抜かれる可能性は十分にある。
かつて女子大(お茶の水女子大学)で勤務した経験がある。武庫川女子大学は、女子大の中でも規模が大きいだけでなく、2年前には大幅な学部再編も行っていたはずだが、今回その武庫川女子大学が共学化を打ち出したことは、他の女子大にも大きな影響を与えると考えられる。 一方で、女子大が学生募集に苦労している背景には、性別に起因する要因だけでなく、女子大に多い学部のいくつかが、近年の学生の関心と乖離していることもあるのではないか。したがって、単なる共学化にとどまらず、学部の大胆な再編をセットで検討すべきだろう。
マイクロソフトはオープンAIに約2兆円を投資している。その投資がなければ、現在の生成AI技術の発展は困難だったとも言える。その意味では、マイクロソフトの貢献は大きいといえるだろう。しかし記事にある通り、同社とオープンAIの現在の関係を踏まえると、マイクロソフトにとっては投資の回収が難しいといえ、今後、株主からの反発も予想される。同社の経営陣としては難しい舵取りが求められるはず。 一方、オープンAIにおいても、営利化とPBC(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)の狭間で揺れ動いていると、技術者の流出につながる可能性がある。
就職活動に加えて、インターンシップが学部生・修士院生の負担になっている。理工系の修士院生の場合、1年目の時間の大半をインターンシップに費やし、1年目の後半から2年目初めまでは就職活動となる。この結果、修士院生の本務といえる研究に本腰を入れられるのは、就職内定が出そろう2年目の夏以降となる。院生は研究の機会を失い、大学の研究能力が下がり、さらに企業は研究経験が少ない院生を採用することになる。つまり、誰も得をしていない。経済団体に調整能力がないのはわかるが、再考すべきではないか。 昨夏、情報通信系で最も会員数の多い電子情報通信学会が、インターンシップの長期化を懸念する会長声明を出した(下記)。 https://www.ieice.org/jpn_r/president/2024/statement.html
過去に半導体事業を手がけた国内企業ほど、ラピダスへの出資に慎重な印象がある(政府補助金などの要因を除く)。本来、最先端の2ナノ製品が量産できれば海外からの生産委託や出資も期待できるはずだが、その段階に至っていない。そうなるとラピダスは試作段階だけでなく、量産化での約束通りの微細化に関する道筋を示すことが求められるだろう。 ところで、ラピダスに関しては経産省が強くコミットしているが、その経産省の過去の半導体政策がすべて上手くいっているとは言い難いのではないか。まずは経産省が過去の半導体政策を総括することが、結果的にラピダスへの出資を増やすのではないか。
記事にもあるように、証券会社の対応は迅速だったとはいえない。加えて、証券以外の業界では「多要素認証」などの対策を講じていることは珍しくないが、ネット証券は顧客の資産に直結するにもかかわらず、これまで証券会社が個別に適切な対策を取ってきたのかも問われる。フィッシング詐欺によるログイン名やパスワードの流出であり、顧客の責任と考えていたのかもしれないが、これだけの規模となると証券会社の対応は不可欠であろう。 なお、「多要素認証」は不正利用を困難にするが、それだけで完全に防げるわけではない。仮に証券会社側のシステムに問題があれば、不正利用は引き続き発生し得るし、顧客側も適切な情報管理が求められる。
日本の意匠法は、日本における保護しかできません。メタバースは国境を越えて運用・提供されることを考えると、今回の法改正で保護される範囲は限定的に見えます。なお、意匠は特定の外国または国際意匠登録も可能とはいえ、各国で意匠として保護される範囲は各国法に依存するため、保護の範囲も異なってきます。 さて、ユーザー数が多いメタバース空間では、仮想アイテムなどの3次元データが誰かの作成物であっても、比較的自由に流用されていることは少なくありません。権利保護は当然なされるべきですが、現実空間にはない自由さもメタバースの魅力のひとつといえ、どこで折り合いをつけるかも興味深いところです。
7 桁の英数字によるコードであっても、個人の住所を特定できるのであれば個人情報に該当するはず。また、幾つかの懸念も浮かび上がる。①従来の住所表記よりも表記ゆれが少なく一意に識別しやすいため、このコードを名寄せに利用される可能性が高い。②事業者のデータにコードが含まれていても、コードからは住所情報を示すと認識されず、漏えいなどの事故につながりやすくなる可能性がある。③事業者がコードで連絡先住所を表記すると、事業所の所在が見えにくくなる。また④日本郵便がコードから住所を特定するサービスを提供した場合、コードの生成方法によっては、実在する住所を逆引きしやすくなることも懸念されます。
仕事柄、全米科学財団(NSF)を訪れることがある。最後に伺ったのは昨年の3月だ。米国の科学技術政策は、研究者による提案よりも、国が設定したテーマに基づく研究を重視する。ただし、そのテーマ設定は丁寧かつ巧みである。NSFなどの研究助成機関は、多数の内部研究者と、大学などから数年間期限で出向してきた研究者(准教授相当以上)が中心となり、研究者へのヒアリングや議論を重ねてテーマを定めていく。一連の助成機関への予算削減は、助成を受ける研究者への影響に目が行くが、助成機関に所属する研究者が散逸すれば、テーマ設定能力が低下する。仮に予算が復活しても、テーマ設定能力を取り戻すには時間がかかるだろう。
本件、グーグルへの影響だけを見るのは視野が狭い。というのは、グーグルがウェブ検索に生成AIを導入することで影響を受けるのは、グーグルだけではなく、むしろネットビジネス全体だからだ。ウェブ検索で利用者が生成AIの結果に満足すれば、検索結果の先にあるウェブを見なくなる。利用者がウェブを見る回数が減れば、ウェブのネット広告の効果も下がる。結果としてネット広告の掲載料も下がる。ネット広告の掲載料を収入源とする大半の無料ウェブサービスは収入が減り、閉鎖するところも出てくるだろう。ネット広告に頼るネットビジネスにとって大きな曲がり角になるのではないか。
キャッシュレスサービスの普及とともに、コンビニATMの利用は減っているはず。というのも、コンビニATMの主な利用目的は振込などもあるが、利用目的の多くは買い物のために銀行口座のお金を現金に引き出すことだからだ。キャッシュレスが普及すれば現金を使う機会が減り、それに伴いATMの利用も減ることになる。一方でATMの維持費は安くない。セブン銀行をはじめとする小売系銀行はATM台数が多く、その維持費の負担が重くのしかかっているとみるべき。現在のATM利用件数も重要だろうが、将来の利用件数がどうなるかが鍵を握るはず。本件は将来のATM需要を見越した動きと見るべきであろう。
パブコメは、少数意見を施策立案に反映させる有益な仕組みであり、多数意見が重視されがちな民主主義を補完する役割も担っています。しかし、この制度は行政機関側の負担を前提としており、コメントが大量に寄せられて行政機関が対応しきれなくなれば、制度そのものが維持できなくなり、民主主義にとっても大きなマイナスとなります。 まずは提出する側が、パブコメは数ではないことを認識すべきです。重複する意見については提出者側同士で集約することも求められるのではないでしょうか。
記事はグーグルに対するAIの影響という視点で述べているが、記事中「検索者は様々なウェブページをたどる必要性が薄れ、その分、広告閲覧数を減らす可能性が高い。」は、広告による収入に頼る(グーグル以外の)ネットサービス事業者の収益性を下げることになる。今後、無料のネットサービスの大半が立ちゆかなくなる事態を想定すべきである。その場合、無料のネットサービスを享受してきた利用者も大きな影響を受けることを忘れるべきではない。
NTTグループの内向きな組織替えに見えてしまうし、他にやりようがあったのではないか。 仮にNTTグループとして海外展開を広げるのであれば、NTTの子会社の中でも海外事業に慣れていたNTTコミュニケーションズを、NTTドコモという国内通信キャリアの子会社にするのではなく、NTTデータと合併させた方がよかったのではないか。 また、IOWNを推進するという観点からすれば、NTTグループ外との連携が求められていたはず。
オープンAIは「人類全体への貢献」を掲げるNPO的な側面があったからこそ、優秀な人材を集めることができていたともいえ、研究開発能力の視点から見ると、営利化が直ちに有利になるとはいえないはず。 そもそも、営利化したとしてもオープンAIが単独で利益を出すのは難しいのではないか。生成AIの開発・提供コストは下がってきているが、オープンAIのサブスクリプション型ビジネスモデルで、それらの費用を賄えるとは限らない。 オープンAIは引き続き営利と非営利のハイブリッドな構造を維持しながら、両立を進めるのであろう。
本件が株価操作を目的としたものなら、個人ではなく証券会社単位で不正アクセスの標的となっていたといえ、約款を超える補償は一つの対応方法といえるだろう。 現在、パスワードによる認証は安全とはいえなくなっている。証券口座のような不正アクセスの被害が大きいサービスの場合、パスワードだけで利用者を認証するのは適切だったとは言い難く、多要素認証の必須化は妥当というか、遅いぐらいともいえる。 ただし、多要素認証は不正アクセスを難しくするが、不可能にするわけではない。利用者は引き続きフィッシングやマルウェアを警戒し、複数サービスでパスワードの使い回しを避けるなどの自衛策を怠らないことが重要である。
これまでの金融絡みの不正アクセスは口座のお金を盗むものであったが、本件は不正に多数の口座にアクセスして、相場操縦を狙うものであり、従来とは異質の問題が起きていることになる。 当局の対応が求められそうな状況だが、それ以前に多要素認証の導入が遅れている証券会社には早々の対応が求められる。また利用者側も推測可能なパスワード設定や、パスワードの使い回しなどを行っていないかを確認するとともに、フィッシング攻撃にいままで以上に用心が必要となる。 現時点では被害に遭っていない方も、今後、巻き込まれる可能性はある。当局に加えて、メディアも広く注意を促すべきであろう。
万博開催前に、記事にあった「カラダ測定ポッド」を体験させてもらった。簡易な測定であり、同ポッドの予測結果そのものよりも、自分なりに25年後の姿を考える機会を得られる点に価値があるのだろう。 なお、個人情報保護法改正作業に関わった立場から言えば、同ポッドは要配慮個人情報になりうる個人情報を取得するものだが、その体験そのものより、むしろ利用目的の明示方法などへの違和感の方が記憶に残っていることを付け加えておく。
今日、デジタル庁の行政事業レビューを実施したところである(当方は同庁の行政事業レビュー&政策評価会議の座長)。 行政における事業は多様であり、行政事業レビューの情報をAIの学習データとして使う場合、前例や類似案件の多い事業ほどAIの精度が高まり、それ以外では精度が低くなりやすく、その結果、政策が偏ったり、前例主義に陥ったりすることのないよう注意して頂きたい。 そもそも政策評価は、行政の無謬性を避ける観点から、行政の失敗を認めつつも、その失敗を早期に予見して軌道修正するための制度である。AIの予測・評価に頼るだけでなく、まずは効果があるか否かを試すという姿勢も重要ではないか。
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佐藤一郎
国立情報学研究所 教授
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【注目するニュース分野】コンピュータサイエンス、テクノロジー、デジタル政策、科学技術政策
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