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出自を知る権利 親子つなぐ議論深めて

2025年5月14日 05時05分 (5月14日 05時05分更新)

 67年前に東京都立墨田産院で取り違えられた男性が生みの親の調査などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は都に調査を命じた。
 「出自を知る権利」を認めた、踏み込んだ判断だ。この権利は法律に規定がなく、法整備を求める声も高まっている。実の親子をつなぐ最善の方策は何か、さらに議論を深めたい。
 男性は出産直後にほかの新生児と取り違えられ、実親とは違う親に育てられた。
 裁判で都側は、出自を知る権利を定めた法律はないとして請求棄却を求めたが、地裁判決は都側の主張を退けた上で、この権利は幸福追求権を定めた憲法13条などで保障されると認定した。
 さらに判決は、子が生物学上の親とつながることは子の人格的生存に重要と指摘。仮にそれができなくても、自身に重要な根源的・歴史的事実である出自情報を知ることも法的利益だと位置付けた。
 実親がどんな人か、育った環境や、自分に血のつながったきょうだいがいるのか、などの情報は自身の人格基盤に関わる。原告の男性がひたすら、そうした情報を求めたことは十分に理解できる。
 小池百合子都知事は控訴せず、男性の実親調査を行う考えを表明した。実親側の事情にも配慮しつつ、迅速に進めてほしい。
 出自を知る権利を巡っては、第三者提供の精子や卵子を使う生殖補助医療のルールを定める特定生殖補助医療法案を、自民、公明、日本維新の会、国民民主の4会派が国会に提出している。
 精子・卵子の提供者、医療を受けた夫婦と子の情報を国立成育医療研究センターで100年保存。子が18歳になれば提供者に関する一定の情報を開示する内容だ。
 出自を知る権利に応じようとすることは一歩前進だとしても、開示される情報は限定的で、提供者を特定できる情報開示は提供者の同意が必要とされている。
 また、孤立出産を防ぎ、母子の命を守るため、身元を明かさずに産む「内密出産」の取り組みを都内の医療機関でも始めたが、子の出自を知る権利の保障が課題となっており、法制化を求める声が上がっている。
 出自を知る権利を確保するための法整備は依然、途上にある。生きづらさを抱える人たちに寄り添うため、あらゆる場面で議論を深め、法制化を促していきたい。

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